ヤマメシ


 上の写真は曲げわっぱ、またはメンパとも呼ばれる曲げ細工で、かつて弁当箱に使われていたものです。(宮崎演習林所蔵)

曲げわっぱの弁当箱については、杣人(そまびと:林業従事者の古い呼び名)が愛用していたことでも知られています。彼らの昼ごはんは弁当箱のフタにもご飯をぎっしり詰めたもので、一食あたり2~3合ものコメを平らげたそうです。

昔の山林労働がいかに重労働であったかを物語る逸話ですね。

私たち演習林技術職員の仕事は、森林での作業や調査と多岐にわたります。
昔の山林労働と比ぶべくもないですが、深く険しい山中での仕事では消耗を強いられます。
そんな山での一番の楽しみといえばやっぱりお弁当の時間です。
一仕事終えて、みんな思い思いにお弁当を広げてくつろぎます。
気候のよい時期に山で食べるお弁当はことのほか美味しく感じます。
これは私が愛用しているナラ材の弁当箱で、20年以上現役の丈夫なものです。
本来は2段重ねで使いますが、年相応に今では1段が適量です。
こちらは最近使いだした曲げわっぱの弁当箱。
たまに弁当箱を変えたら気分も変わるのでは、と妻が気遣って新調してくれました。コンパクトながら安定したスタイルで気に入っています。

同僚たちのお弁当も紹介したかったのですが、あっさり断られました。

山間僻地での不自由な生活は、これまでの通信からうかがい知れると思います。
なにせ週に一回しか!食料の買い出しにいけないのですから。
そんな場所にあっても私は妻のおかげでお弁当のみならず三食の心配なく暮らしています。(とはいえ妻はいつも食糧計画に頭を悩ませていますが・・・)
一方、ここに住む後輩たちは、コンビニ弁当というわけにもいかず、毎日三食のご飯を自分で賄わねばなりません。
そのことを思うと、普段は先輩風を吹かしている私ですが、たまには彼らに優しくせねばと思ったりもします。

さて、今日も手作りのお弁当を携えて、サラメシならぬヤマメシを励みに山へ出発します。妻への感謝と元気に帰ってくることを胸に秘めつつ。
「行ってきます!」
                  2020.12.1 D.O


三方岳調査

 最近、よく三方岳に登っています。三方岳は宮崎演習林にある標高1439mの山です。車を置く場所が1050mくらいなので、およそ400mを登ります。時間にして1時間半。山頂付近の稜線に調査に行くためです。

登り始めの森はミズナラを主とする二次林です。

しかし、登り始めるとすぐにブナが迎えてくれます。ミズナラ、モミツガもたくさんいます。始めの方は常緑広葉樹のアカガシやウラジロガシもいますが、そのうち姿が見えなくなってきます。彼らにとっては寒すぎるのでしょう。そのかわり、ブナをよく見るようになり、サイズも大きくなってきます。さらに上るとブナの樹高が低くなり、どっしりとした姿になります。とても風格があります。



尾根には、シカが食べないアセビが大きく育っています。技術スタッフが登山道の整備をしてくれているので、そのような場所でもアセビトンネルをくぐり抜けて通ることができました。



登るにつれて、見える景色もどんどんきれいになります。この日は秋晴れで、とてもきれいに遠くの山まで見えました。市房山と津野岳の間に雲海も見えました。


山頂付近の稜線では、樹木密度がとても低くなっています。土壌侵食が激しく起こっていて、樹木の粗根が土壌から出てしまっています。


枯死している個体も目立ちます。土壌侵食が原因なのでしょうか、、、??



朝8時半に事務所を出発して、11時頃からやっと調査を開始できました。この日はリタートラップの回収やイングロースコアの設置を行いました。福岡から3人の3年生も手伝いにきてくれました。予定していた14時半には終わりませんでしたが、15時半頃、総力を尽くして調査を終えることができました!




三方岳の頂上付近は冬には土壌が凍結・融解を繰り返し、土壌侵食を加速していると考えられます。一般的には森林では起こらないとされるリル侵食も観察されます。もし、土壌侵食が原因で樹木衰退が起こっているのであれば、樹木個体数がどんどん減って、さらに土壌侵食を加速させる負のフィードバックがかかっている可能性もあります。これから数年かけて、椎葉の森の土壌侵食と樹木衰退について調べていきたいと思っています。

Katayama

紅葉,秋の公開講座

 

 11月に入って山々の木々の紅葉が進んできました.九州山地は標高差があって高い頂稜から順に色づいていくため,比較的長い間紅葉を楽しめます.先日は,宮崎演習林と椎葉村観光協会の共催で2日間にわたり公開講座が開催されました.1日目は椎葉村交流拠点施設Katerie(かてりえ)において森林に関する講義,2日目は三方岳に向かう登山道と演習林内の歩道を歩く自然観察が行われました.自然観察の当日は0℃近くまで冷え込みましたが,日中は快晴で気持ちの良い天気でした.

               天然林と人工林の違いを解説

 
今年、台風で折れたモミの木
 
近年、稜線の木々が衰弱し林冠が疎らです
 
 
シカが食べないアセビの繁茂が著しいです
 
演習林の山並み

稜線から北東方向の眺め
 
2020.11.13 TN
 

キノコを採って食べること

夏の終わり頃のこと,皆で森を歩いている時にタマゴタケを見つけました.

卵から生まれるように出てきます.美しい

地面から出てきたばかりです.傘が開いた姿も見たかったので3日後にまた行ってみたのですが,もう見つけることができませんでした.動物に食べられたのか,探す場所を間違えたのか.

このタマゴタケ,姿の美しいキノコとして(その世界では)有名ですが,食べておいしいことも知られています.私も以前人から頂いたことがあるのですが,量が少なかったためか味がよくわかりませんでした.残念です.

ちなみにタマゴタケは美味とされますが,同じテングタケ科の仲間は毒キノコだらけです.「キノコ」のデザインによく用いられるベニテングタケ,純白の美しさと致命的な毒性で(その世界では)有名なドクツルタケなども含まれます.
椎葉で見つけたテングタケの仲間たち
ボロボロですが,右上はベニテングタケだと思います

学生の頃,山で見つけたキノコを同定し,食べてみることを趣味にしていました.自分の調査地に色々なキノコが生えてくるのがとても気になったのです.その地域(栃木の日光)がキノコ採りの盛んな土地柄だったことにも影響を受けました.
ムラサキアブラシメジモドキ
昔初めて食べた野生キノコ.懐かしい

私の場合はほぼ独学でしたが,大事なことはまず致命的な毒キノコを憶えること,可食でも姿の似た毒キノコと間違えやすく中毒例が多いものを憶えること(それは基本手を出さない),そして知ってるものだと思っても毎回しっかり確認することだと思います.
ツキヨタケ
シイタケやムキタケ(可食)などと間違えられて中毒例が多い毒キノコ
軸の中の黒いしみが見分けポイントの一つ
暗闇の中でぼんやり光るのでそれを愛でるのが良いと思います

同定して確信が持てるまで決して食べない,のですが,夢中になっているときはこれが難しくて,えいやっと食べてみたくなるのですよね.この衝動を抑えるのに苦労したことをおぼえています.

そんなわけで「その頃は100種類くらいのキノコを食べていたよ」なんて最近まで言っていたものですが,今回改めて図鑑を見ながら数えてみたら,過去に食べたことのある野生キノコは34種+アルファでした.自分でもびっくりしたほど,全く大したことなかったですが,まあ中毒もなかったので良かったと思います.

野生のシイタケ
原木栽培の盛んな土地なので栽培品種の胞子由来だろうと思います

やってみてわかったことですが,一回食べた後で,次もまたぜひ採りたいと思うものは稀です.シイタケなどは本当に優秀なキノコなのだということがよくわかりました.ヒラタケやナラタケ,マイタケなど有名なもの,それから「シメジ」と名の付くものは大体美味しかったですけど(「シメジ」と名の付く毒キノコもたくさんありますが).一度巨大なブナシメジを見つけて食べた時は感動しました.

見つけて嬉しいキノコの例
(左上)ヒラタケ,(右上)クリタケ,
(左下)アカモミタケ,(右下)ミネシメジ?(ちゃんと確かめてません)


食べたキノコの多くに魅力を感じなかったのは,一つには食べ方を知らなかったこともあったと思います.例えばこれ,

チチタケ
固い手触りと,傷口から乳状の液が出てくるのが特徴.
かつて夢中になったキノコ生活の象徴

栃木ではチタケと呼ばれて非常な人気があり(これで出汁をとった「ちたけうどん」が名物),そして栃木だけで人気があるそうです.このキノコ,炒めても茹でてもこれ自体はボソボソと固くて何もおいしくありません.まず油と酒などでキノコのうまみと香りを取り出すこと,それをナスに移したりうどんに絡めたりするのがポイントで,ナスとの炒め合わせなどは本当にうまいと思います(ナスの方が).その辺りを知らなければ取るに足らないキノコになるのだと思います.


キノコは危険な趣味であり,それだけに孤独な趣味でもありました(同好会とかなら別でしょうけど).大抵は別に美味しいものでもないのですが,山で見つけたキノコを調べて食べてみる,という行為自体に何より面白さがあるのだと思います.ただ,やっぱり危険なことに加え,種の同定にはそれなりのエネルギーと時間を必要とします.それでもやってみようという情熱が湧かなくなり,最近は基本的に食べることは止めております.

2020.11.4 市橋

宮崎演習林のカラマツ林

   宮崎演習林にはカラマツの林があります。これは自生しているわけではなく,むかしむかし60年以上も前に北海道演習林から苗木を譲り受け,この椎葉の山奥に植栽したものです。かなりの本数のカラマツが植えてあります。こんな数を送ってもらうのも大変だったのではないでしょうか?
   九州と北海道という全く異なる場所であっても,同じ木を植えて比較をしたり,自然に生えている同じ種類の木を比べてみたり…そんなことが手軽に出来るのも,3つの演習林を持つ九州大学ならではと思います。
   カラマツは針葉樹の中でも珍しく落葉する針葉樹です。これからの時期は黄色に色づいてキレイになります。秋もそこまで来ています。
 
カラマツ林(24林班)

秋空とカラマツ(25林班)
2020.9.30 sa

エゾヒグマ、帰還。

 先日、長らく福岡に出張していたエゾヒグマのはく製が宮崎演習林に戻ってきました。九州ではクマ(ツキノワグマ)は絶滅したとされているので、そのはく製、しかも北海道に生息しているエゾヒグマを見ることができるのは大変貴重になります。


近くで見ると想像以上の迫力があります

九州大学は福岡、宮崎、北海道の3つの演習林を持っているため、宮崎にいながらもクマを体感できるわけです。もう少し秋晴れがの日が増えてきたら、天日干しして出張の疲れを労ってあげたいですね。

 

様々な樹種の断面が見れる材鑑標本

演習林に生える植物の形態が分かるさく葉標本

二ホンアナグマとホンドテンのはく製

昆虫標本。これだけの数を集めた先輩方すごい…

  宮崎演習林にはこのほかにも展示・標本が数多くあります。コロナの影響がある現在ではなかなか難しいかもしれませんが、落ちついたらぜひ宮崎演習林に足を運んでみてください。まだ見たことがない方はもちろん、もう見たことがある方もお待ちしています。m(__)m

                          2020.09.16 山内(耕)

その後の人吉(2020年8月末日)

 7月の長い梅雨が終ったと思ったら、猛暑の夏がやってきました。

ここ椎葉(標高約600m)でも、35℃を記録するという、異例の暑さです、、、。

ところで、先日、人吉に行ってきました。だいぶ復旧が進んだなあと思った一方で、まだまだ道のりは長いな、、、と。最近の人吉の街と連絡所(演習林の施設)の様子を簡単ですが、ご報告します。



人吉連絡所の近所の道(左:7月4日、右:8月末日)

氾濫直後は、汚泥が20-30cmほど道路に堆積していました。当日、この道を歩いて連絡所に向かいました。最近は、すっかり綺麗になりましたが、粉塵は相変わらずのこっています。



人吉連絡所の入り口の様子(左:7月4日、右:8月末日)

 氾濫直後は、球磨川の水位が高く、入口の前の道が完全に水没していたため、車でアクセスできませんでした。水も茶色です。最近は、すっかり濁りがとれ、水位も低く、普段の球磨川の様子です。



人吉連絡所の敷地内(左:7月9日、右:8月末日)

敷地内は汚泥が堆積していましたが、福岡からの応援もあり、重機を使って、すっかりきれいに撤去できました。温室の中にはまだ撤去できていない泥が堆積しています、、、。



災害廃棄物(左:7月11日、右:8月末日)

物品が少ないと思っていた連絡所庁舎でさえ、浸水により大量の災害廃棄物が出てきました。浸水被害の大変さを痛感しました。また、災害直後は、廃棄物を市内の指定の場所に捨てに行くのに、交通渋滞がひどく6時間もかかりました、、、(普通なら30分もかからない場所です)。



7月4日の球磨川の様子、ツイッター画像(https://pbs.twimg.com/media/EcC7QMVVAAAUWzs.jpg


人吉連絡所近くの繊月大橋(奥の赤い橋)がほとんど水没し、手前の橋が一部流されています。この写真を見て、洪水の恐ろしさを改めて実感しました。



破損した橋、8月末日の様子

8月中旬に確認したときは、壊れた状態だったのですが、先日見たら、復旧工事が始まっていました。対応の早さに驚きました。

球磨地方に引っ越してきてまだ1年も経っていませんが、この地の美しさ・おいしい農産物など、この場所がすっかり気にいっています。球磨のゲートシティである人吉は、古きよき日本の風情が残る街。大勢の観光客でにぎわう人吉をまた早く見てみたいです、、、。



2020.08.31 TK









 


 










虫の話

少し前のことになりますが,事務所前でルリボシカミキリを見つけました.

昆虫少年のあこがれの一つ(たぶん).思っていたよりも大きくて,しっかりした体つきでした.


私は子供の頃から虫が好きだったのですが,都心部で育ったものであまり多くの種類を見ることができなかったのです.こんなものを見つけると今でも本当にワクワクします
(なお「虫が好き」と言うのはあくまで一般の子供レベルの感覚です.専門的な知識などは全くありません)


子供の頃のあこがれと言えば,こんなものも.
ナナフシ(ナナフシモドキ)です.この独特の佇まいに心惹かれる人は多いのではないでしょうか.図鑑等でおなじみでしたが,私が初めて生きたナナフシに会えたのは大人になってからだった気がします.


椎葉に住んでいると,日常的に様々な昆虫や小動物と遭遇します.私にとってそれはとても楽しく,日々の喜びの一つになっています(虫が苦手な人だとそのまま苦痛になるのかもしれません).
メジャー系

甲虫光り物シリーズ
ちなみに左下のオオセンチコガネ(糞虫)は平らなコンクリートの上で
ひっくり返ると自分では起き上がれずに死んでしまいます


基本的に虫というのは人から逃げていくものであり,そもそも小さいものが多く,私の持っているカメラと技術に収められるのは日々目にするものの本当に一部です.大部分はもっと渋い感じで,何というか不思議だったり不気味だったりするものばかりです.


子供時代からのあこがれもあるのですが,40歳も過ぎて改めてそういう虫たちを見ていると,この世界には本当に色々なものが生きているのだなあ,という気持ちにさせられます.それに伴う喜びや感動も,ある意味では大人になってからの方が大きいこともあるように思います.
ヒメヤママユ
蛾は手の上で落ち着いてくれるものが多いです
顔もだいたい目がクリっとしてかわいいと思う

2020.8.13 市橋

シダの国から

豪雨が去り村内の日常が戻ってきたこの頃,演習林だけでなく事務所まわりにも多様なシダ植物が生育していることに気づきます.シダ植物は種子植物が誕生する前から分岐した植物の一派で宮崎県は国内でも特にシダ植物の多様性が高い地域です.椎葉村は谷底から九州山地の稜線まで1000m程度の標高差があり,暖温帯から冷温帯まで幅のある気候環境が多様なシダ植物相を育んでいます.近年ではシカによる林床植物の変質や消滅が深刻化していますが,シダ植物はそれほど好みでないためか,現在も多く見ることができます.以下に事務所まわりで代表的なシダを紹介します.

 イヌワラビ
日当たりの良い石垣に生えます.

 イノデ
谷沿いの湿った風通しのいいところが好きです.
イノモトソウ
石垣に生えます.
 イワガネゼンマイ
日陰や谷沿いなど湿ったところに生えます.
 イワヒバ
石垣に生えます.小葉類といって真正のシダ植物よりも昔に分岐した植物です.
 ゲジゲジシダ
羽片の基部が三角の翼状になるのですぐわかります.
 サジラン
湿った暗い崖や擁壁でよく見かけます.ランと言いますがシダ植物です.
シノブ
樹や岩に巻き付くシダで,よく縁日に苔玉にして売られていますね.
 タチシノブ
半日陰に生えます.チャセンシダ科と思っていたらイノモトソウ科でした.
トラノオシダ
石垣や法面に生えます.
ビロードシダ
樹や岩に着生するシダで細かい毛が生えています.
マメヅタ
あまりシダっぽくないシダです.茶色いのは胞子嚢の付いた胞子葉です.

2020.7.22 Nakamura