三方岳調査

 最近、よく三方岳に登っています。三方岳は宮崎演習林にある標高1439mの山です。車を置く場所が1050mくらいなので、およそ400mを登ります。時間にして1時間半。山頂付近の稜線に調査に行くためです。

登り始めの森はミズナラを主とする二次林です。

しかし、登り始めるとすぐにブナが迎えてくれます。ミズナラ、モミツガもたくさんいます。始めの方は常緑広葉樹のアカガシやウラジロガシもいますが、そのうち姿が見えなくなってきます。彼らにとっては寒すぎるのでしょう。そのかわり、ブナをよく見るようになり、サイズも大きくなってきます。さらに上るとブナの樹高が低くなり、どっしりとした姿になります。とても風格があります。



尾根には、シカが食べないアセビが大きく育っています。技術スタッフが登山道の整備をしてくれているので、そのような場所でもアセビトンネルをくぐり抜けて通ることができました。



登るにつれて、見える景色もどんどんきれいになります。この日は秋晴れで、とてもきれいに遠くの山まで見えました。市房山と津野岳の間に雲海も見えました。


山頂付近の稜線では、樹木密度がとても低くなっています。土壌侵食が激しく起こっていて、樹木の粗根が土壌から出てしまっています。


枯死している個体も目立ちます。土壌侵食が原因なのでしょうか、、、??



朝8時半に事務所を出発して、11時頃からやっと調査を開始できました。この日はリタートラップの回収やイングロースコアの設置を行いました。福岡から3人の3年生も手伝いにきてくれました。予定していた14時半には終わりませんでしたが、15時半頃、総力を尽くして調査を終えることができました!




三方岳の頂上付近は冬には土壌が凍結・融解を繰り返し、土壌侵食を加速していると考えられます。一般的には森林では起こらないとされるリル侵食も観察されます。もし、土壌侵食が原因で樹木衰退が起こっているのであれば、樹木個体数がどんどん減って、さらに土壌侵食を加速させる負のフィードバックがかかっている可能性もあります。これから数年かけて、椎葉の森の土壌侵食と樹木衰退について調べていきたいと思っています。

Katayama

紅葉,秋の公開講座

 

 11月に入って山々の木々の紅葉が進んできました.九州山地は標高差があって高い頂稜から順に色づいていくため,比較的長い間紅葉を楽しめます.先日は,宮崎演習林と椎葉村観光協会の共催で2日間にわたり公開講座が開催されました.1日目は椎葉村交流拠点施設Katerie(かてりえ)において森林に関する講義,2日目は三方岳に向かう登山道と演習林内の歩道を歩く自然観察が行われました.自然観察の当日は0℃近くまで冷え込みましたが,日中は快晴で気持ちの良い天気でした.

               天然林と人工林の違いを解説

 
今年、台風で折れたモミの木
 
近年、稜線の木々が衰弱し林冠が疎らです
 
 
シカが食べないアセビの繁茂が著しいです
 
演習林の山並み

稜線から北東方向の眺め
 
2020.11.13 TN
 

キノコを採って食べること

夏の終わり頃のこと,皆で森を歩いている時にタマゴタケを見つけました.

卵から生まれるように出てきます.美しい

地面から出てきたばかりです.傘が開いた姿も見たかったので3日後にまた行ってみたのですが,もう見つけることができませんでした.動物に食べられたのか,探す場所を間違えたのか.

このタマゴタケ,姿の美しいキノコとして(その世界では)有名ですが,食べておいしいことも知られています.私も以前人から頂いたことがあるのですが,量が少なかったためか味がよくわかりませんでした.残念です.

ちなみにタマゴタケは美味とされますが,同じテングタケ科の仲間は毒キノコだらけです.「キノコ」のデザインによく用いられるベニテングタケ,純白の美しさと致命的な毒性で(その世界では)有名なドクツルタケなども含まれます.
椎葉で見つけたテングタケの仲間たち
ボロボロですが,右上はベニテングタケだと思います

学生の頃,山で見つけたキノコを同定し,食べてみることを趣味にしていました.自分の調査地に色々なキノコが生えてくるのがとても気になったのです.その地域(栃木の日光)がキノコ採りの盛んな土地柄だったことにも影響を受けました.
ムラサキアブラシメジモドキ
昔初めて食べた野生キノコ.懐かしい

私の場合はほぼ独学でしたが,大事なことはまず致命的な毒キノコを憶えること,可食でも姿の似た毒キノコと間違えやすく中毒例が多いものを憶えること(それは基本手を出さない),そして知ってるものだと思っても毎回しっかり確認することだと思います.
ツキヨタケ
シイタケやムキタケ(可食)などと間違えられて中毒例が多い毒キノコ
軸の中の黒いしみが見分けポイントの一つ
暗闇の中でぼんやり光るのでそれを愛でるのが良いと思います

同定して確信が持てるまで決して食べない,のですが,夢中になっているときはこれが難しくて,えいやっと食べてみたくなるのですよね.この衝動を抑えるのに苦労したことをおぼえています.

そんなわけで「その頃は100種類くらいのキノコを食べていたよ」なんて最近まで言っていたものですが,今回改めて図鑑を見ながら数えてみたら,過去に食べたことのある野生キノコは34種+アルファでした.自分でもびっくりしたほど,全く大したことなかったですが,まあ中毒もなかったので良かったと思います.

野生のシイタケ
原木栽培の盛んな土地なので栽培品種の胞子由来だろうと思います

やってみてわかったことですが,一回食べた後で,次もまたぜひ採りたいと思うものは稀です.シイタケなどは本当に優秀なキノコなのだということがよくわかりました.ヒラタケやナラタケ,マイタケなど有名なもの,それから「シメジ」と名の付くものは大体美味しかったですけど(「シメジ」と名の付く毒キノコもたくさんありますが).一度巨大なブナシメジを見つけて食べた時は感動しました.

見つけて嬉しいキノコの例
(左上)ヒラタケ,(右上)クリタケ,
(左下)アカモミタケ,(右下)ミネシメジ?(ちゃんと確かめてません)


食べたキノコの多くに魅力を感じなかったのは,一つには食べ方を知らなかったこともあったと思います.例えばこれ,

チチタケ
固い手触りと,傷口から乳状の液が出てくるのが特徴.
かつて夢中になったキノコ生活の象徴

栃木ではチタケと呼ばれて非常な人気があり(これで出汁をとった「ちたけうどん」が名物),そして栃木だけで人気があるそうです.このキノコ,炒めても茹でてもこれ自体はボソボソと固くて何もおいしくありません.まず油と酒などでキノコのうまみと香りを取り出すこと,それをナスに移したりうどんに絡めたりするのがポイントで,ナスとの炒め合わせなどは本当にうまいと思います(ナスの方が).その辺りを知らなければ取るに足らないキノコになるのだと思います.


キノコは危険な趣味であり,それだけに孤独な趣味でもありました(同好会とかなら別でしょうけど).大抵は別に美味しいものでもないのですが,山で見つけたキノコを調べて食べてみる,という行為自体に何より面白さがあるのだと思います.ただ,やっぱり危険なことに加え,種の同定にはそれなりのエネルギーと時間を必要とします.それでもやってみようという情熱が湧かなくなり,最近は基本的に食べることは止めております.

2020.11.4 市橋