シダの国から

豪雨が去り村内の日常が戻ってきたこの頃,演習林だけでなく事務所まわりにも多様なシダ植物が生育していることに気づきます.シダ植物は種子植物が誕生する前から分岐した植物の一派で宮崎県は国内でも特にシダ植物の多様性が高い地域です.椎葉村は谷底から九州山地の稜線まで1000m程度の標高差があり,暖温帯から冷温帯まで幅のある気候環境が多様なシダ植物相を育んでいます.近年ではシカによる林床植物の変質や消滅が深刻化していますが,シダ植物はそれほど好みでないためか,現在も多く見ることができます.以下に事務所まわりで代表的なシダを紹介します.

 イヌワラビ
日当たりの良い石垣に生えます.

 イノデ
谷沿いの湿った風通しのいいところが好きです.
イノモトソウ
石垣に生えます.
 イワガネゼンマイ
日陰や谷沿いなど湿ったところに生えます.
 イワヒバ
石垣に生えます.小葉類といって真正のシダ植物よりも昔に分岐した植物です.
 ゲジゲジシダ
羽片の基部が三角の翼状になるのですぐわかります.
 サジラン
湿った暗い崖や擁壁でよく見かけます.ランと言いますがシダ植物です.
シノブ
樹や岩に巻き付くシダで,よく縁日に苔玉にして売られていますね.
 タチシノブ
半日陰に生えます.チャセンシダ科と思っていたらイノモトソウ科でした.
トラノオシダ
石垣や法面に生えます.
ビロードシダ
樹や岩に着生するシダで細かい毛が生えています.
マメヅタ
あまりシダっぽくないシダです.茶色いのは胞子嚢の付いた胞子葉です.

2020.7.22 Nakamura

豪雨のあと

7月4日早朝、夜半よりの豪雨で不安な一夜が明けた頃、下に住む職員から「球磨地方で大規模な水害が発生し、人吉連絡所も被災している」との知らせが入りました。
災害多発地の椎葉側でなく、県境向こうの球磨側に被害が出たことを意外に感じました。
しかし、夜が明けてからも雨脚の弱まる気配はなく、ここでも災害に備えて準備を始めました。

一ツ瀬川源流の峻険な山々に囲まれた僻地で、かつ人口希薄地の当地では、道路、電気、水道といった生活インフラは極めて脆弱です。
道路の寸断による孤立化、長時間停電、断水は珍しくありません。また、宮崎演習林庁舎は災害時の避難所に指定されています。

そこで、庁舎付帯の宿舎に住んでいる職員は、自身の避難準備と並行して庁舎を点検し、発電機や燃料の搬入、飲料水・一般用水の確保など避難受け入れ準備を行ないます。
そして、ひと通りの準備が終われば、あとは各所からの連絡に備えての災害待機となります。

そうしているうちに「あそこの道路が崩れた」とか、「どこそこへ抜ける道は土砂が流れだしている」といった地元情報が入りだします。
それらの情報を収集しながら、演習林の中がどうなっているか気がかりでなりません。
しかし、雨の中では二次災害の危険もあり、ジリジリと疲弊しながら雨のやむのをひたすら待ちます。

7月13日、降雨発生から11日目、「令和2年7月豪雨」と称された大雨が漸くやみました。降り始めからの雨量は、演習林事務所での観測値で1,000mmを超える記録的豪雨でした。

さて、雨がやむと山林、道路の被害確認、「林内巡視」に行くのが慣例です。
トラックにありったけの土工道具やチェンソーを積んで出発します。
この辺りの道路は、国道も含めて急峻な地形につけられた隘路ばかりです。
普段の雨上がりでも落石や出水、洗い出した土砂に悩まされるので、こういった大雨の後は特に注意を要します。
演習林へ向かう村道。アスファルト下の路盤材が浸食されたのでしょう、路面が凸凹です。

道路沿いの治山堰堤。地山へすりつける基礎部分が流されいます。この時点で先行きにかなりの不安を感じます。

演習林内の道路状況です。山からの排水が捌けきれずに路面を洗っています。
そして、その流れが路面を浸食しています。
沢が土砂で埋まり、排水が機能しなくなった場所では流水が滝のように路肩をけずっています。
こうした路肩の決壊もあちこちで発生していました。
ここでは、法面から洗い出された土砂が道路を塞いでいます。
比較的大きな谷には大径のコルゲート管を設置していますが、それでも水を捌けきれなかったのでしょう。太い丸太が道に押し上げられていました。

予想した通り、林内の道路ではあちこちで損傷が生じていました。ただし、総合的な判定としては、自力復旧可能な範囲での被害にとどまりました。
なにより恐れていた斜面の崩壊や地滑りといった大規模な災害が起こらなかったのは本当に幸いでした。



一昨日より、さっそく復旧に向けて作業にとりかかりました。
演習林内の道路は、ほとんどが未舗装で頻繁なメンテナンスを必要とします。その反面、手持ちの機械ですぐに施工できる即応性にすぐれる利点があります。
しかし、山に水が飽和している状態では危険も高いので、本格的な復旧は梅雨明けとなりそうです。

今回に限らず、ここでは大雨や台風がくるたびに自身の安全と管理山林への心配からストレスが高まります。しかし、それこそが宮崎演習林の山守としての務め、ともいえます。
日頃から災害への備えは怠らず、あとは運を天に任せるほかはなさそうです。
                                2020.7.18 D.O

人吉連絡所 復旧の様子

昨日の投稿では大変な状況を紹介しましたが、事務所の復旧は着実に進んでいるので、今日は復旧中、現在の様子をご報告します。

人吉連絡所の被害の状況

みなさんご存知のとおり、7月3日夜から4日昼にかけて、人吉球磨地域を中心に非常にたくさんの雨が降りました。そして、球磨川が氾濫しました。我々九大宮崎演習林は椎葉村にありますが、その玄関口である人吉市に連絡所(事務所)と官舎が1件あります。何人かの職員は人吉や球磨郡に住んでいます。今回の大雨により、事務所と官舎が床上浸水しました。ニュースに映る人吉や球磨の様子をご覧になって、多くの方に心配いただきました。被害はあったものの、我々は元気にしています。復旧もすこしずつですが、進んでいます。今回はブログの場を借りて、被害や復旧についてご報告させて頂こうと思います。