キノコを採って食べること

夏の終わり頃のこと,皆で森を歩いている時にタマゴタケを見つけました.

卵から生まれるように出てきます.美しい

地面から出てきたばかりです.傘が開いた姿も見たかったので3日後にまた行ってみたのですが,もう見つけることができませんでした.動物に食べられたのか,探す場所を間違えたのか.

このタマゴタケ,姿の美しいキノコとして(その世界では)有名ですが,食べておいしいことも知られています.私も以前人から頂いたことがあるのですが,量が少なかったためか味がよくわかりませんでした.残念です.

ちなみにタマゴタケは美味とされますが,同じテングタケ科の仲間は毒キノコだらけです.「キノコ」のデザインによく用いられるベニテングタケ,純白の美しさと致命的な毒性で(その世界では)有名なドクツルタケなども含まれます.
椎葉で見つけたテングタケの仲間たち
ボロボロですが,右上はベニテングタケだと思います

学生の頃,山で見つけたキノコを同定し,食べてみることを趣味にしていました.自分の調査地に色々なキノコが生えてくるのがとても気になったのです.その地域(栃木の日光)がキノコ採りの盛んな土地柄だったことにも影響を受けました.
ムラサキアブラシメジモドキ
昔初めて食べた野生キノコ.懐かしい

私の場合はほぼ独学でしたが,大事なことはまず致命的な毒キノコを憶えること,可食でも姿の似た毒キノコと間違えやすく中毒例が多いものを憶えること(それは基本手を出さない),そして知ってるものだと思っても毎回しっかり確認することだと思います.
ツキヨタケ
シイタケやムキタケ(可食)などと間違えられて中毒例が多い毒キノコ
軸の中の黒いしみが見分けポイントの一つ
暗闇の中でぼんやり光るのでそれを愛でるのが良いと思います

同定して確信が持てるまで決して食べない,のですが,夢中になっているときはこれが難しくて,えいやっと食べてみたくなるのですよね.この衝動を抑えるのに苦労したことをおぼえています.

そんなわけで「その頃は100種類くらいのキノコを食べていたよ」なんて最近まで言っていたものですが,今回改めて図鑑を見ながら数えてみたら,過去に食べたことのある野生キノコは34種+アルファでした.自分でもびっくりしたほど,全く大したことなかったですが,まあ中毒もなかったので良かったと思います.

野生のシイタケ
原木栽培の盛んな土地なので栽培品種の胞子由来だろうと思います

やってみてわかったことですが,一回食べた後で,次もまたぜひ採りたいと思うものは稀です.シイタケなどは本当に優秀なキノコなのだということがよくわかりました.ヒラタケやナラタケ,マイタケなど有名なもの,それから「シメジ」と名の付くものは大体美味しかったですけど(「シメジ」と名の付く毒キノコもたくさんありますが).一度巨大なブナシメジを見つけて食べた時は感動しました.

見つけて嬉しいキノコの例
(左上)ヒラタケ,(右上)クリタケ,
(左下)アカモミタケ,(右下)ミネシメジ?(ちゃんと確かめてません)


食べたキノコの多くに魅力を感じなかったのは,一つには食べ方を知らなかったこともあったと思います.例えばこれ,

チチタケ
固い手触りと,傷口から乳状の液が出てくるのが特徴.
かつて夢中になったキノコ生活の象徴

栃木ではチタケと呼ばれて非常な人気があり(これで出汁をとった「ちたけうどん」が名物),そして栃木だけで人気があるそうです.このキノコ,炒めても茹でてもこれ自体はボソボソと固くて何もおいしくありません.まず油と酒などでキノコのうまみと香りを取り出すこと,それをナスに移したりうどんに絡めたりするのがポイントで,ナスとの炒め合わせなどは本当にうまいと思います(ナスの方が).その辺りを知らなければ取るに足らないキノコになるのだと思います.


キノコは危険な趣味であり,それだけに孤独な趣味でもありました(同好会とかなら別でしょうけど).大抵は別に美味しいものでもないのですが,山で見つけたキノコを調べて食べてみる,という行為自体に何より面白さがあるのだと思います.ただ,やっぱり危険なことに加え,種の同定にはそれなりのエネルギーと時間を必要とします.それでもやってみようという情熱が湧かなくなり,最近は基本的に食べることは止めております.

2020.11.4 市橋