鳥が運んだ水草

 椎葉では梅雨が早くも明けたのに台風の接近のため雨が続いています。急峻な九州山地では深い谷こそあれ穏やかな池沼は希少ですが、堆砂した砂防ダムがかろうじてそれに代わる存在です。先日、演習林内の砂防ダムを覗いてみると、思いがけない植物が目に入りました。

堆砂した砂防ダムの中に水草が

これはヒルムシロ科ヒルムシロ属の水草で、葉の形態からフトヒルムシロと思われます。葉っぱを蛭の筵と見立てて名づけられたらしいです。本来は低地の池沼に分布する水草で、こんな山奥にあるのはちょっと意外に感じられました。

モネ感出てます

花は水面上に突き出して咲く

 なぜフトヒルムシロがこんな所にあるのか疑問に思っていたところ、秋のライトセンサスの頃に手がかりとなる出来事がありました。ライトセンサスとは夜間にライトの明かりで獣の眼がキラリと光ることを利用して、車で演習林内をゆっくり走行し周辺の森をライトで照らしシカの数を数える調査です。


ライトセンサスの様子

晩秋のライトセンサスの折、件の砂防ダムで数十羽のオシドリが翼を休めていたのです。おそらく越冬地に向かう途中、キツネなどの天敵を避けるため砂防ダムの水面で休憩していたのでしょう。毎年同じ砂防ダムにオシドリがやってくるのを見ているうちに、フトヒルムシロはオシドリが運んだのではないかと考えるようになりました。


ライトに照らされて飛び立つオシドリ


水鳥が水草を食餌し他所の湖沼で糞をすることで、食べた水草の種子が芽生えることがあります。また、単純に羽毛に種子や植物体の一部が引っ掛かって運ばれることもあるでしょう。このように動物の行動を利用して種子を運んでもらう植物の戦略を動物散布と言います。

 ヒルムシロは池沼でしか生活できませんが、水鳥に運んでもらいあちこちに渡っていくことができるのかもしれません。また、オシドリの方も大したものです。上空から見れば芥子粒ほどの水面をきちんと覚えていて毎年そこで休憩しているのですから。

ヒルムシロとオシドリの不思議な連携に感心しました。


2022/07/04 NT