白髪岳登山

先日、卒論調査の下見に球磨郡あさぎり町の白髪岳に登ってきました。森の研究をしていると言えど、趣味が登山というわけではなく、行くのはもっぱら演習林の森です。なので、他の山の様子を見る機会はあまりないのですが、今回、近所の白髪岳に登ってとても良かったので報告させていただきます!

白髪岳は標高1417mなので、高さはウチ(九大宮崎演習林)の三方岳(1479m)とほとんど変わりません。白髪岳がとても良いのは、登山口が既に1100m程度ある点です。そして、ブナの群生地であることです。ブナが生えていて、下層植生が消失し、土壌侵食が起こっている場所を探しているのですが、そういう場所は車から結構歩かないといけない場合が多く、調査がしづらい環境です。白髪岳は山頂までのアクセスが非常によいのにもかかわらず、ブナがいる、そしてササがない、ということで、とても良い候補地と考えていました。
(ちなみに、登山口から頂上まで1時間で行けるらしい、と同行者にアナウンスしていたのですが、ゆっくり歩いていると結局2時間かかってしまいました、、)



歩き始めると、すぐにブナがいました!常緑広葉樹のアカガシも立派なやつがいました。宮崎演習林の植生ととても似ていて、親近感がわきます。


なぜか、ハイノキだらけでした。わさーっとしていて、とても密に生えています。ハイノキはシカがあまり食べないのかもしれません。ウチの演習林にも結構います。


立派なブナを見ると、おお~~~~!となりますよね。枝ぶりが複雑です。

今回、白髪岳に行って驚いたことのひとつが、ブナの多さでした。他の樹種もいますが、標高が上がるにつれて、圧倒的にブナの個体数が多くなっていました。そして、ミズナラがいません(見ません)でした。椎葉にも霧島にもいますが、なぜ、白髪岳にはいないのでしょうか、、

そして、もうひとつ驚いたのがシキミの多さです!ウチの森はアセビだらけなのですが、こちらにはアセビがおらず、シキミばかりでした。そして、ウチのシキミにはだいたいタマバエの虫こぶがついているのですが、こちらのシキミには虫こぶがなく、とてもきれいな葉っぱをしていました。稜線のシキミの葉は細長く、見た目もアセビみたいになっていました。

シキミもアセビもシカが食べない低木種です。シカの個体数が増加すると、この辺の森はアセビだらけの森になってしまう、と思っていましたが、シキミだらけの森にもなるのかもしれません。しかし、なぜこちらにはアセビがいないのでしょうか。そして、アセビがやってくると、アセビがシキミに勝つのでしょうか。(ウチには両方いますが、圧倒的にアセビの方が多いです。)謎だらけです。



標高が上がるとブナの占める割合がどんどんあがり、大きな個体も目立ちます。


だがしかし!稜線に出始めるととたんに樹木の枯死が増え、土壌は侵食されつくし、荒涼とした世界に変わりました。


大きな個体はいるのですが、枯死してしまった個体も多いです。生きている個体も上の方から枝を落として、大型リターが目立ちます。


ウチの山の稜線も枯死木が増えていて、「世界の終わり」と名付けているのですが、こちらは「世界の終わり」がさらに進んだ状態で、面積も広かったです。


だがしかし!たくさんのシカ防除ネットが設置されていて、なんとなんと、ササが守られていました!!もともとこの辺りの森林は2mを超えるササが繁茂していたのですが、シカが全部食べてしまって、今は公園のような下層には何も生えていない状況となっています。下層植生は森林生態系の機能を維持するためには必要不可欠な存在で、私は上層木の枯死も下層の消失が間接的な原因ではないかと考えています。下層植生の果たす役割、土壌侵食の影響、上層木の枯死の原因については鋭意、調査中です。学術的な知見はもちろん、保全という観点からも研究を行いたいと思っています。今回、シカ防除柵がこれほどたくさん作られていてびっくりしましたし、我々も頑張らないといけないな、と思いました。



 最後に、お決まりのサルノコシカケに腰掛けました、写真です。

白髪岳、とても良かったです!何と言ってもブナの多さにびっくりしました。私は関西の低地出身なので、ブナには縁遠いのですが、最近はすっかりブナ好きになってしまいました。この辺りのブナは南限に近く、気候変動の影響も受けやすいです。そのうち九州のブナはいなくなってしまうと言っている論文もあります。ぜひ、ブナ林を見に白髪岳に行ってみてはいかがでしょうか~~

Katayama