2021年公開講座 椎葉の奥座敷 秋の紅葉探索と森づくり

 10月23-24日に公開講座が行われました。まだ紅葉には早かったですが、とても良いお天気で充実した2日間でした。

まずは講義からです。樹木のことや森を見るときのポイント、
森の持つ機能などを知ってもらいます。
場所は椎葉村の「Katerie(かてりえ)」です。
キッズスペース、図書館、ボルダリングなどのある交流施設です。
とてもおしゃれで機能的で大好きな場所です。


講義のあと、上椎葉ダム(1955年竣工)の見学に行きました。
当時、延岡からセメントを運ぶのに、なんと索道が利用されていたそうです!
つまり、60kmにもおよぶロープウェイでセメントを運んでいたとのこと!!
工事の様子がわかるYou tubeを発見しました!
このリンクの7:00あたりをご覧ください。


2日目は軽い山登りです。大河内峠からゆっくり、三方岳にかけて稜線を登っていきます。(今年は三方岳までは行きませんでした。)

ゆっくり森を歩きながら、森や木の解説をします。
どんぐり拾いもしました!

山から下りたあとは、森づくりということで、単木防除ネットの設置です。最近、全国のいろんなところでシカの個体数増加が問題となっていますが、これまでこのブログでも紹介している通り、椎葉は1980年頃からシカが増え始め、2000年頃には下層植生(森林の下の方に生えている植物、ササなど。)が食害を受けて公園のような景観になっています(ササの変化についてはこちらの記事をどうそ)。

林業も大きな被害を受けていて、植栽した苗は何らかの対策をしないとすぐに食べられてしまいます。防除柵をはっても、それを維持するのはとても困難です(コチラ参照)。宮崎演習林としても色々な試行錯誤をしていますが、なかなかこれという対策はありません。伐採後、すみやかに新しい苗を植栽し、森づくりをしなければ、森林の多面的機能を維持することが難しくなります。

ということで、今回は宮崎演習林ではあまりやってこなかった単木で苗を守る単木防除柵を公開講座の中で作ってみました。材料は3つ、市販のヘキサチューブ(黄)、亀甲金網(綠)、玉ねぎネット(赤)です。苗はウチの山から実生(芽生えてすぐの木の赤ちゃん)を取ってきて、苗畑で育てたカエデやミズナラなどです。

まずは苗の植栽から。みなさんとても上手です。

作業はとても簡単。支柱を立てて、それに金網を取り付けます。

できあがり!とてもカラフルになりました~!

意外に玉ねぎネットが柔軟性もあって施工も簡単で良いのではないか?!となりました。これからの成長が楽しみですね!年に一度、この苗たちの成長具合をブログで紹介する予定です。楽しみにしていてください!

そのあとはウチの山で行っている調査地などの見学に行きました。

こちらはシカ柵ネットの中(右)と外(左)です。
柵内ではシカの食害がないので、次世代を担う実生が元気に育っていますね。
色んな樹種の実生が出ています。
ネットがないと全てシカに食べられてしまうので
大人の立派な樹木が死んだとき、そのあと誰もいないので
森林の中に空き地が出来てしまいます。
それがどんどん広がり、森林の裸地化が進む危険があります。
どうしたらよいのかは分かりませんが、宮崎演習林では
次世代の子供たちを苗畑で育てたり、柵を作ったり、
どうにか森が維持できるように試行錯誤しているところです。

というわけで、2020年2019年などとはちょっと趣向を変えた今年の公開講座でした。コロナ禍で、移動は自家用車、ということもあり、行ける範囲が限られていますが、また来年、魅力のある公開講座にしたいと思いますので、ぜひ遊びに来てください!

Katayama


ハンショウヅルと雑草栽培

 事務所前に植えたタカネハンショウヅルの花が咲きました.

タカネハンショウヅル(キンポウゲ科)
全体図
ちなみに事務所は外壁工事中

クレマチス(センニンソウ属)の一種で,木本性のつる植物.火事を知らせる半鐘に花が似ているのでその名前があります(タカネは高嶺).
近所の半鐘

近所の大きな個体から種をもらいました.まだ植えて2年,思っていたより早かったです.やっぱり花が咲くと嬉しいですね.
実生時代

もともと,植物に限らず何かを育てるタイプではないのですが,宮崎に来てからなんとなく種をとってきて植えるようになっています.とは言え,ちゃんと育てる自信はやっぱりないので,勝手に育つような逞しい雑草を好んでます.
最初の年はキュウリグサと,勝手に生えてきたチヂミザサ
コチヂミザサ?意外に色鮮やか

今年はカタバミ
芽生えがかわいい

このような種は少しくらい乾いても死なないし,光の足りない室内で育つくらいの方が,多少なりとも繊細感が出て良いのではないかと,個人的に思っています.

まあ好みはあるでしょうが,机に生きた植物がいるというのはなかなか良いものです.興味はあるけど繊細に育てる自信がないという方は,適当な雑草から始めてみてはいかがでしょうか.
カタバミすら枯れるとまた自信をなくしますが

2021.10.08 市橋

スズタケと森の風景

 宮崎演習林を含む九州山地ではかつて森の地面(林床)の大半はスズタケというササの一種に覆われていました。人の背丈を超える濃いササ藪の中に広葉樹や針葉樹が混生する景観が本来の森林でした。しかし、宮崎演習林では1980年代後半からスズタケの密度が減少し、2000年代初めには限られた場所にだけスズタケが残存する程度に激減しました。その原因はシカ(キュウシュウジカ)がスズタケを繰り返し食べたことによります。シカの個体数の増加に伴い、スズタケだけでなく他の多くの植物もシカに食べ尽くされ、林業的に植栽される苗木も防除柵で保護しなくてはまともに成長することを期待できなくなりました。結果的に演習林の林床は公園のように見通しが良くなり、シカが食べない有毒植物ばかりが繁茂する奇妙な景観を呈するところが増えてきました。スズタケがなくなったことで地面を雨滴から守る落ち葉の層も減少し、雨の度に土壌が流出するなど森林生態系が大きく改変されています。

 こうした背景を踏まえ、宮崎演習林では定期的に演習林全域にわたりスズタケの分布を記録して林床の状況の把握につとめています。今回はスズタケが比較的残る津野岳団地を巡りました。

旺盛に繁茂したスズタケ。これが本来の林床。

崖の近くで一部食べられているスズタケ。

繰り返し食べられて枯死したスズタケ。桿は枯れても数年は残る。

スズタケの地下茎。白骨のようでもの哀しい。

かくして虚ろな空き地ができあがります。


 今回の調査でスズタケが復活しているところは無く、以前からスズタケが濃く生残していた範囲も狭まっていました。しかし、崖や急斜面などシカが立ち入れない場所にはスズタケが生き残っています。元通りに回復するには途方もない年月がかかるでしょうが、スズタケが絶滅することは無さそうです。
                                                                                                     2021/10/7 NT