守りきれなかった植林地

 前回の記事でご紹介したように,宮崎演習林の植林地ではニホンジカ等が木を食べたり傷付けたりするため獣から苗木を守る設備が無い限り若い樹々が育たない状況が続いています.このため,毎年新しく苗木を植え付ける区画は合成繊維や金属で出来た網「獣害防除ネット」を必ず設置します.若い植林地には青々とした草や若い苗木の新芽など獣にとって大切な餌が豊富にあります.演習林内の大半の場所でめぼしい植物は食べ尽くされているため,ニホンジカにとって植林地の獣害防除ネットの中は何としてでも侵入したい魅力的な場所なのです.

ネットの中は草が生い茂るが,ネット外は食害を受けて芝生のよう.6月下旬.

  獣害防除ネットは設置した当初は万全でも,やがて強風でネットに歪みや緩みが生じたり土壌の侵食で裾が浮いたりします.こうなると獣たちはネットを潜り抜けたり飛び越えて侵入してしまいます.そこで,獣害防除ネットを定期的に点検して緩みや歪みを解消し支柱や控え綱で補強をするなどのメンテナンスが必要です.宮崎演習林では定期的に職員が獣害防除ネットのメンテナンスを行っています.

 
沢沿いの段差に設置した網が弱点となり,倒された獣害防除ネット.

 

 
網の裾を止めるアンカー.土が柔らかいとアンカーが浮いて獣が潜り抜ける.

 定期的なメンテナンスにより適切に植林地が守られれば,苗木は順調に成長し数年程度でニホンジカが加害し難い程度のサイズに育ちます.しかし,地形が複雑でネットに弱点が生じやすい場所,奥地で職員が訪れる頻度の少ない地区では獣たちが侵入に成功してしまうこともあります.スギやヒノキなど針葉樹の苗木は芽を獣に食べられると,側の新芽が伸びて代わりの幹になろうとします.しかし,繰り返し齧られることでどんどん枝が増えて盆栽のような萎縮した樹形になります.かろうじて伸びきっても幾本もの幹(叉)に分かれてしまい林業的には全く無価値の代物に成り下がってしまうのです.このように予定していた植林が環境要因や野生鳥獣の攻撃などにより成立しなかった場所は「不成績造林地」(写真)と呼ばれます.それまで投入したコストが無駄になった場所ということで,とてもやるせない気持ちになります.

2010年にスギを植林した場所.疎らにいじけたスギ苗が見える.

繰り返し食害を受けたスギ苗.10年生で50cm程度.

 写真の場所は一部は展示用に保存し,それ以外は苗木を植えなおす「改植」や広葉樹林への誘導など,不成績造林地を使った試験研究が検討されています.

 

2021.3.5 Tn