スズタケと森の風景

 宮崎演習林を含む九州山地ではかつて森の地面(林床)の大半はスズタケというササの一種に覆われていました。人の背丈を超える濃いササ藪の中に広葉樹や針葉樹が混生する景観が本来の森林でした。しかし、宮崎演習林では1980年代後半からスズタケの密度が減少し、2000年代初めには限られた場所にだけスズタケが残存する程度に激減しました。その原因はシカ(キュウシュウジカ)がスズタケを繰り返し食べたことによります。シカの個体数の増加に伴い、スズタケだけでなく他の多くの植物もシカに食べ尽くされ、林業的に植栽される苗木も防除柵で保護しなくてはまともに成長することを期待できなくなりました。結果的に演習林の林床は公園のように見通しが良くなり、シカが食べない有毒植物ばかりが繁茂する奇妙な景観を呈するところが増えてきました。スズタケがなくなったことで地面を雨滴から守る落ち葉の層も減少し、雨の度に土壌が流出するなど森林生態系が大きく改変されています。

 こうした背景を踏まえ、宮崎演習林では定期的に演習林全域にわたりスズタケの分布を記録して林床の状況の把握につとめています。今回はスズタケが比較的残る津野岳団地を巡りました。

旺盛に繁茂したスズタケ。これが本来の林床。

崖の近くで一部食べられているスズタケ。

繰り返し食べられて枯死したスズタケ。桿は枯れても数年は残る。

スズタケの地下茎。白骨のようでもの哀しい。

かくして虚ろな空き地ができあがります。


 今回の調査でスズタケが復活しているところは無く、以前からスズタケが濃く生残していた範囲も狭まっていました。しかし、崖や急斜面などシカが立ち入れない場所にはスズタケが生き残っています。元通りに回復するには途方もない年月がかかるでしょうが、スズタケが絶滅することは無さそうです。
                                                                                                     2021/10/7 NT