ここに赴任して間もない頃、伐採跡地からワイヤーロープを拾ってきました。
集材作業に使われたものでしょう、キンク(より、潰れ)したので忘れられたようです。雨ざらしで、サビも浮いて固くなっていましたが、スリングに使えそうだったので、油を差して車庫の片隅に保管しておきました。
最近になって、材を曳くのに適当なスリングを探している時に、そのことを思い出しました。ワイヤーをひっぱり出してみると、2年あまりの間にサビも落ち、しなやかさも戻っていました。これなら玉掛けに使えそうです。キンクをよけて、ブツ切りにしてワイヤースリングを作ることにしました。
ふた昔前までの高校や大学の林業課程では、ワイヤーロープのスリング加工は必須の技術でした。とはいえ、手頃な価格で市販品も手に入り、取り扱いやすいナイロンスリングも普及している今では、手ずからスリングを作る機会は少ないです。自分の記憶をたどっても、20年くらい作ってないのは確かです。
そこで、先ずインターネットでおさらいしてから、実際に取りかかりました。まだ学生だった頃、教官から教わった、「一つ越して、二つくぐらすんだぞ!」という言葉を繰り返し唱えながらワイヤーにシノを差していきます。
そこに着任早々のN君がやって来ました。N君は興味深そうに、「お、スリングですね。教えてください」と言うので、2人並んでワイヤーを編みます。編み込むほどに手強く、手のマメをつぶしながら渾身の力でシノを差すのに苦戦しますが、若い人が古い技に興味を持ってくれるのは、素直に嬉しいものです。
金づちで叩いて形を整えて、まあまあの出来に見えます。半日かけてスリングを2本仕上げましたが、慣れない作業に2人ともヘトヘトです。
念のため、スリングがどれくらいの重さに耐えるのか、手許のハンドブックを開きます。このワイヤーは、19本の素線で構成されたストランドが6本で撚られています。また、ロープ径は10mmありますので、6×19で10mmの破断荷重をみると大体5〜6t、林業用ロープの安全係数は5前後ですからざっと1tくらいの荷重なら大丈夫。使い古しの損耗分を差し引いても、丸太を引っ張るには十分な強度がありそうです。
さて、その翌日、出来上がったスリングを携えて現場に来ました。
立ち枯れの目立つカラマツ林の一角を整理して、新たに広葉樹の苗木を植える仕事です。倒したカラマツをブルドーザーで曳くのに件のスリングの登場です。
丸太に玉掛けしたスリングを、ブルの後ろにあるフックにかけて、
ブルが力強くカラマツの丸太を曳いていきます。
作業の合間にスリングの状態を点検しましたが、損傷もなく、期待以上の頑丈さに満足です。
一仕事終えて、N君、それに最若手のY君も交えてしばしワイヤー談義に興じました。
今回の仕事では、適当なスリングがない、という必要に迫られてスリング加工のひと手間をかけました。しかし、その手間のおかげで、身近に使っていたワイヤーへの理解が深まり、また、若い人たちとの共感性も得られました。マメがつぶれたり、指に素線が刺さったりして痛い思いもしましたが、さしずめ怪我の功名といったところでしょうか。
2020. 5. 1. D.O