ちょうど一年前のことです。
間伐予定地の照査中に奇妙なものを見つけました。
ヒノキの造林木にもたれてひっそりとたたずみつつ、
しかし、周囲の景色とは異質な存在感を放ってソレはありました。
一見したところ背負い式の噴霧器に見えます。
製造プレートをみると「合資会社林ポンプ製作所」との記載が。
噴霧器に似ますが、ジェットシューター(背負式消火水のう)かもしれません。
いずれにせよ、かなり古い代物であるのは確かです。
ジェットシューターは山火事のさいに人力での消火に使用します。
ですから山仕事に関わる人にはお馴染みです。
一方、造林当初の林木には病気が出たりしますので、噴霧器を山に持ち込んだ可能性も否めません。
気になって、台帳をひも解いてみると、あった、ありました。
”第21林班○小班、昭和44年(1969)、伐採跡地に火入れ地拵を行った後、スギとヒノキを植栽”
の記述が。
「火入れ地拵」、つまり焼畑と同様に伐採跡地の地表を枝条ごと焼いてしまう地拵作業です。地力の増進が図れる反面、技術的な問題や山火事のリスクもあり最近はめったに行われません。
これではっきりしました。件のモノは50年前のジェットシューターでした。
しかし、どうしてずっと山の中に置き去りにされたのか?
この場所は道路からのアクセスがきわめて悪く、険しい隘路があるだけで、健脚でも小半時を要します。
そんな所に、背中のタンクに水を満載して消火に往復したであろう当時の先輩が、
「やってられるか!」と現地にぶん投げて帰ったとしても不思議ではありません。
植栽後、育林作業で何度か現地に足を運んでいるはずですが、山仕事で疲労しての回収は気が進まなかったのでしょう。
その気持ち、よ~く理解できます。
とはいえ、そのままほったらかしなのも気の毒なので、昨年末に引き揚げてきました。ジェットシューター氏、実に半世紀ぶりの帰還です。
長年風雨にさらされて、すでにその機能は失われていますが、原形をよく留めてます。
山仕事の歴史を語るモノとして、これからは大事に保管したいと思います。
(2019.08.14 D.O.)