シカとの戦い

   近年日本中で問題になっているシカ問題ですが,ここ宮崎演習林も例外ではありません。道端で見かけるには可愛いかもしれませんが,一度山に入ると大事に植えた苗木を食いあさったり,自然に生えてきた木を端から食べたりと,山を管理していく上ではかなり厄介な存在です。とはいえ手をこまねいていても何もならない…と言うわけでここ20年以上試行錯誤しているところです。

同じ場所で撮った写真(上:1990年・下:2005年)  郵便歩道
  
   よく利用するのは獣害防除ネット。魚とりで使うトアミのようなものですが,紐の中にステンレスの針金が編み込まれていて,食いちぎられにくくなっています。編目のサイズも色々あって,演習林で使っているのは主に15cm目,10cm目,5cm目です。昔は15cm目を使っていたのですが,これは網目が大きすぎシカが頭を突っ込んで絡まってしまうことも…。10cm目なら頭は突っ込みにくいのですが,この大きさではウサギが侵入してしまいます。シカは防げてもウサギは防げない…ということで,最近は5cm目を使用しています。山の中で1巻50mあるネットを何巻も設置するのは大変な作業ですが,ネットなしで苗木が育つことはまず無理な状況です。
 
防除ネット
 
   比較的設置が簡単で手軽な電気柵も利用します。等間隔に支柱を立ててそこに電気の流れる線を張り巡らします。つなぎ合わせた線に機械をつないで電気を流しているので,触れるとビリッとするのです。電気風呂のようなビリット感ですが,自然界にはあまりない感じなので動物は嫌がります。

電気柵
 
   上の2種類の柵は設置の際に融通がきき,変化に富んだ地形でもそれに併せて設置することが出来ます。ただネットは穴が開いたり地際が浮いてしまったら,そこからすかさずシカが侵入します。電気柵はソーラーパネルで動く機械の具合が悪くなれば電気が流れなくなり,電気紐はただの紐になってしまいます。また周囲の草が伸びてきて電気線に触れてしまうと,漏電して電気が弱くなり,痛くもかゆくもないビリット感になります。完璧に侵入を防止することは難しいですが,定期的な見回りを行うことで,侵入を防ぐ努力をしています。
   こんな中,先日天然林内に新たな柵を試しました。使ったのはワイヤーメッシュという金属製の網です。2m四方の網を支柱でつなぎ合わせます。ネットと違って緩んだり裾が浮いたりしません。下から潜りにくくもあります。ただ設置前に重い資材を運ぶという大変な仕事がありました。しかし運搬半日と設置1日弱で,10m✕24mの枠をどうにか設置出来ました。今後このワイヤーメッシュ内がどうなっていくか,ワイヤーメッシュの効果も併せてご期待ください。

ワイヤーメッシュ柵
 
   獣害防除ネットや電気柵に比べ,ワイヤーメッシュはしっかりしていてシカの侵入防止には効果的ではないかと考えています。しかし正直,事業規模での設置は現実的ではありません。植栽木の保護や天然林の更新については,まだまだ考えていかなければなりません。
   これからも長く果てないシカとの戦いは続きます。
 
2021.2.5 sa