ケヤキ人工林の今昔

  宮崎演習林では過去に様々な広葉樹人工林が植林されてきました。これらは主に木材として価値の高い「有用広葉樹」の育成方法を研究することが目的でした。広葉樹はスギやヒノキなど針葉樹とは生態学的な特性も異なるので育成方法の模索が必要なのです。1993年と1994年に演習林が計画してケヤキの苗が伐採跡地に植栽されました。ケヤキは古くから日本の伝統建築や木工に利用されてきた樹木であり、宮崎演習林でも谷沿いに自生する馴染み深い樹です。先日、仕事のついでに、ケヤキ人工林の様子を簡単に調べてみました。1998年以来25年ぶりのケヤキ人工林の成長について紹介します。

Plot2のケヤキ人工林


 図1に試験地の見取り図を示しました。ケヤキ苗木の植栽密度は一番密度の高いP1区で12,000本/ha、中間のP2とP3区で3,000本/ha、低密度のP4区で700本/haと大きな差があります。スギ・ヒノキ人工林では1ha当たり2000~3000本の植栽密度が一般的ですから、極端な高密度、平均的な密度、極端な低密度でケヤキの生存率や成長の良否を検討することが意識されていたそうです。なお、P2区とP3区は樹高100~200㎝の苗木、P1区とP4区は50~80㎝の苗木を植栽しており、最初の個体サイズにだいぶ差がありました。


図1 試験地の見取り図

 調査方法として、各区でケヤキ立木を5本選んで樹高や胸高直径を調べました。また、およそ10m四方に何本のケヤキがあるのか数えて、その他混生する樹木も記録しました。図2に樹高、図3に胸高直径のグラフを示します。表1に10m四方のケヤキ本数と混生する樹種を示します。サンプルが5個体と少ないためか有意差は出ませんでしたが、参考までに考察してみましょう。


図2 ケヤキの樹高

図3 ケヤキの胸高直径

表1 10m四方のケヤキ本数と混生する樹木

 樹高ではP1、P2、P4区に大きな差は無く、P3区が最も樹高が低かったです。また、胸高直径ではP2区が最も大きく、P4区、P1区、P3区は概ね同程度でした。つまり、樹高と胸高直径の双方でP2区は成長が優れており、P3区は最も成長が劣っていることがわかりました。さらに、10m四方のケヤキ本数はP2区が最も多く15本、次いでP3区が10本、P1区が9本、P4区が最も少なく4本でした。


 1998年に調査を行った大崎ら(1999)はケヤキ人工林の成長を以下のように報告しています。土壌条件の違いのためか、植栽木の樹高は各区でばらつき1m前後から2.4mを超える個体(P2区)もありました。苗木サイズの違いを差し引くといずれのプロットも実質成長は40~80㎝と大きな違いは認められませんでした。また、生存率はP1区(12,000本植栽)で86%、P2とP3区で84%(3,000本植栽)、P4区(700本植栽)で63%であり密植の方が生存率は高い結果でしたが、生存率を下げた原因はシカ食害ではなく下刈り作業での誤伐でした。



 今回の調査では、1998年の調査と同様にP2区の成長が最も優れていました。この結果は大きな苗からスタートしたことで雑草木との競争を勝ち抜けたことが影響しているように思えます。一方、同じ大きな苗を使ったP3区は成長が劣っており、何か他の要因が関係しているのかもしません。興味深いことにP2区は他の調査区と異なり、混生する樹木や草本がほとんど有りませんでした。これはシカによる食害を考慮しても不自然であり、もしかすると立派に成林したP2区を林道から観察しやすくするために職員が雑木を択伐した可能性もあるかもしれません。



 植栽密度の観点では、低密度700本/ha植栽のP4区は10m四方のケヤキ立木数4本と最も少なく、下刈りの誤伐で個体数が減ったという指摘と一致します。そして、アカマツやシデ類がケヤキを追い越して成長し成林できなかったのでしょう。一方、高密度12,000本/ha植栽のP1区はケヤキ同士で競争が起こり、自己間引きの末に植栽密度が低下して落ち着いたと解釈できます。ちなみに高密度に植栽することで真っすぐな幹で枝が暴れない樹を育成しやすいという説もありますが、現在生存しているケヤキの樹形を観察した限りでは特に優れた樹形のようには感じられませんでした。したがって、ケヤキの植栽密度は低すぎれば誤伐のリスクが有り、高すぎても特に意味はないということが今回の結果から示唆されました。


 ここまで、ケヤキ人工林の成長について語ってきましたが、これから用材を目的としたケヤキを育成するにはいくつか課題があります。広葉樹は針葉樹に比べ幹が真っすぐで枝の無い部分が短いのです。写真のように一番下の枝までの高さ(最低枝下高)が2~3m程度しかありません。林業では幹の価値が向上するよう保育作業をしますので、枝打ちして枝下高を上げることが有効です。また、樹が大きくなるにつれ適切な密度になるよう間伐も必要かもしれません。これらのケヤキを収穫できるまで一人の職員が観察をすることは不可能ですが、過去の職員が残した記録を紐解くことで森に歴史ありということを改めて思いました。


このケヤキが100年後にはどうなっていることだろう?

<引用文献>

大崎ら(1999)九州大学宮崎演習林試験地シリーズ No.1 「ケヤキ人工林試験地」


2023/3/27 NT