見慣れないカシ

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。 

さて、生物を観察して形態的な特徴から種を特定することを「同定する」と言います。生物の形態を観察していると「この個体とあっちの個体は別の種かもしれないな」と感じることや、逆に今まで区別していた2種が実は同じ種だったということをしばしば体験します。こうした体験は、観察を続けることで同定する能力が向上したことに起因しています。流行りの深層学習などAI(人工知能)がやっていることは、このような人間の脳の働きを模倣した仕組みであると聞きました。


 先日、よく分からない常緑のカシ類を見つけました。その地区ではアカガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、アラカシ、マテバシイなどブナ科樹木が生育していました。調査のため樹木の同定をしないといけないのですが、よく観察すると典型的な形態ではないアカガシが混在していることに気付きました。なんだかよく分かりませんが、このような直感は大体当たるので葉っぱを持ち帰って調べることにしました。アカガシの葉は縁が滑らかな全縁で葉柄が長く、古い樹皮はかさぶた状になるところが特徴です。しかし、持ち帰った標本は葉縁の上端に申し訳程度のギザギザ(鋸歯)が有ったり無かったりし、葉柄は明らかに短いのでした。樹皮もアカガシにしては白っぽくて平滑な様子でした。

不明のカシ類の外観

不明のカシ類その葉っぱ

 しばらく考えてツクバネガシなのではないかと思い至りましたが、どうも私が知っているツクバネガシよりも葉がずっと大きくて触感もゴワゴワしています。平凡社の植物図鑑で調べてみたところ、なんとアカガシとツクバネガシの雑種でオオツクバネガシという種であることが判りました。植物では近縁の2種で雑種ができることがあり、その形質はやはり親の形質を引き継いで中間的な特徴を示すことが多いです。なるほど、だから最初はアカガシと間違えていたのでした。

左からツクバネガシ、オオツクバネガシ、アカガシ
葉のサイズ、葉柄の長さが異なる


左からツクバネガシ、オオツクバネガシ、アカガシ
左2種は赤矢印の箇所に鋸歯(ギザギザ)がある


オオツクバネガシの樹皮
左は若い樹、右は壮齢の樹

アカガシの樹皮
かさぶた状に古い樹皮がはがれ、赤味帯びる


 その後、宮崎演習林の他の地区でもオオツクバネガシを見つけ、わりと雑種がありふれていることがわかりました。また、オオツクバネガシの葉っぱの大きさや鋸歯の有無などの形質にかなり幅があるように感じました。これは、偶然なのか、雑種の混ざり具合?が場所によって異なる所為なのでしょうか。ふとした気付きで想像が膨らみました。

堂々としたアカガシの樹形

2023/1/10 NT